普天満女神の由来 
昔、首里の桃原というところに美しい乙女が住んでおりました。 優しく気品に満ちたその容姿が人々の評判となり、島中で噂となりましたが不思議なことに誰一人その姿を見た人はいないのです。
彼女はいつも家で機織りにせいをだし、決して他人に顔を見せませんでした。神秘的な噂に、村の若者達は乙女に熱い想いを寄せておりました。
ある日の夕方、彼女が少し疲れてまどろむうちに荒波にもまれた父と兄が目の前で溺れそうになっている夢で見ます。乙女は驚き二人を必死で助けようとしましたが、片手で兄を抱き父の方へ手を伸ばした瞬間、部屋に入ってきた母に名前を呼ばれて我に返り、父を掴んでいた手を思わず放してしまいました。 幾日か過ぎ、遭難の悲報とともに兄は奇跡的に生還しましたが、父はとうとう還りませんでした。
乙女はいつものように機織りをしていましたが、その美しい顔に愁いが見えます。 神様が夢で自分に難破を知らせて下さったのに、父や船子たちを救うことができなかった悲しさが、乙女の心から放れません。以来、旅人や漁師の平安をひたすら神に祈り続ける毎日でした。
乙女の妹は既に嫁いでおりましたが、ある日夫が「姉様は美人だと噂が高いが、誰にも顔を見せないそうだね。私は義理の弟だから一目会わせてくれないか。」 と頼みました。しばらく考えた妹は「姉はきっと断わるでしょう。 でも方法があります。私が姉様の部屋に行きあいさつをしますから、そのとき何気なく覗きなさい。 中に入ってはいけません。」と答えました。
「姉様しばらくでございます!」 妹の声に振り向いた乙女は、障子の陰から妹の夫が覗いているのを見つけ、途端に逃げるように家をとびだしました。 末吉の森を抜け山を越え飛ぶように普天間の丘に向かう 乙女に、風は舞い樹々はざわめき、乙女の踏んだ草はひら草になってなびき伏しました。乙女は次第に神々しい姿に変わり、普天間鍾乳洞に吸い込まれるように入って行きました。 そして再び乙女の姿を見た人はありません。 現身の姿を消した乙女は普天満宮の永遠の女神となったのです。